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OLD CLOTH , NEW CLOTHES

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古いデッドストック生地で仕立てた新しい一本​​​​

1月3日、YOKE FLAGSHIP STOREには新春を祝う特別商品がお目見えします。​デッドストック&ヴィンテージ生地を使った3タックワイドトラウザーズを、完全数量限定販売。​一点一点が豊かな表情を持ち、現代の技術では再現することが難しいものばかり。​そんな希少な生地をつないでくれた「yuge fabric farm」の川勝裕哉さんの並々ならぬ“生地愛”とともに、今回の企画について紐解いてゆきます。

生地を自分の子のように愛してやまない生地屋​​

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―――まず、「yuge fabric farm」について教えていただけますか?

 

川勝:国内外の色んな場所から集めた古物や美術品、ヴィンテージアイテムを扱う大阪の「Essential Store」というショップの生地部門が「yuge fabric farm」です。

 

「Essential Store」は今、大阪の福島に店舗があるんですが、以前は期間限定で物件を借り、期間が終わるとまた別の拠点を探すサーカス方式でお店を開けていました。オーナーがアメリカを中心にあちこちに買い付けに行って、売るものが揃ったら開けるスタイルです。

 

お店が開いている日は僕も店頭に立って、一般のお客様に生地を切り売りしています。お店がクローズしている日は主にアパレル企業を中心に、生地を持って営業へ。

 

寺田:この「Essential Store」が本当にヤバいお店なんですよ。広くて迷路みたいな空間に、「なにこれ?」っていう面白いものがひしめいていて。まるでダンジョンみたい。生地も珍しいものばかりです。

 

川勝:生地も同じように色んなところで買い付けて、洗って巻き直して売ります。僕らはこの活動を「生地レスキュー」って呼んでいます。​

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―――「生地レスキュー」について、もう少し詳しく教えてください。

 

川勝:本来は廃棄される生地をレスキューして、価値をつけなおして次の世代につなぐ仕事ですね。元々はEssential Storeの仕入れ背景の中で、遺品整理や廃業の片付けなどさまざまな依頼の話があり、その流れで生地のレスキューが始まりました。

 

引き取った生地は兵庫県の西脇市にある倉庫に運び、綺麗に整えてまた使える状態に直して、店頭販売したり企業に卸したりしています。

 

寺田:生地の魅力ももちろんですが、川勝さんの生地への熱量の高さが半端ないところも惹かれたポイントです。

 

川勝:ただの生地オタクです(笑)。扱っている生地すべてに愛着があるんです。

 

つい先日まで倉庫に寝泊まりして、大量の生地を一つ一つ切って、スワッチ(生地見本)を作っていました。

寺田:いつもお会いするときは、大きなスーツケースいっぱいにスワッチを詰め込んできてくれます。すべての生地について、詳細をすぐに答えられるのがすごいなあと思っていました。

 

川勝:生地部門は会社から完全に任せてもらっているんです。だからこそ、僕にとっては生地一つ一つが我が子のような感覚でやっていて。

 

寺田:生地のことを「あの子」とか呼びますもんね(笑)。

 

川勝:そうなんです(笑)。前職の繊維商社では、自分たちの生地が売れた後どうなったか、わからないことが多くて。売れて嬉しい反面、寂しさもありました。

 

「yuge fabric farm」は直接ブランドさんに営業して、最終的にどんな形になるかまで見届けられるのがありがたいです。生地にも、「そんな風にしてもらってよかったね」って話しかけたくなるくらい。

クオリティーも量も過去最高のビッグレスキュー​​

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川勝:今回の初売り企画でYOKEさんにつないだ生地は、もう2度と仕入れられないような貴重な生地ばかりなんですよ。

 

寺田:そうなんですか?!

 

川勝:大阪で40年以上インポート生地を集めて売っていた生地屋さんが廃業することになり、すべての生地を引き継ぎました。その総量、4万メーターです。想像つかないですよね。

 

ほとんどが、名だたるメゾンがオートクチュールで使うような高級生地のデッドストック。まさにお宝の山です。

 

寺田:それはすごいですね!

 

川勝:僕らのことを信用してくれていたからできたことでした。

 

寺田:生地を一目見て、すぐにすごさがわかります。日本では出せない配色や質感の生地ばかりですね。

 

川勝:イギリスの老舗ファブリックメーカーのMOON社製のものが多いです。180年以上続く高級ウールで、かなりの高品質です。

―――この生地を使って、どんなアイテムを作ったんですか?

 

寺田:9素材をピックアップして、YOKEで定番人気の3タックパンツに落とし込みました。

 

無地からチェック、色ものまで、バリエーション豊富に並べます。素材の幅も広いので、1点ずつ手に取って見比べてもらいたいですね。

 

川勝:生地は全て個性的なものばかりです。年に1回くらい大きなレスキューの話があるのですが、今回は僕がこれまで携わった中でも一番のクオリティー。驚きと興奮の連続でした。

寺田:このアルパカ100%の梳毛生地なんて、かなり珍しくないですか?

アルパカってウォーム感のあるふわふわな素材なので、ニットやコートに使われることが多い。スーツやスラックス用の生地は見たことがないです。日本じゃ買えないですね。

あとブラウンとアイボリーのハウンドトゥースもキャッチーで好きです。糸が太めだから立体感があって、表情がある。

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川勝: この生地は、ラグジュアリーブランド御用達のイタリアPONTETORTO社のもの。保温性が高いと言われているバージンウール100%です。肌触りも独特で、かなりコストが高いため日本では滅多に見ることができないんですよ。

 

寺田:これも配色が絶妙で惹かれました。

 

川勝:デッドストックって、いわば売れ残りでもあるわけです。当時は難しくて残っちゃったけど、定番ではない良さがあり、今も色褪せない価値になっています。

 

「やばいな」と興奮する生地は、明らかにまわりと違うオーラを放っていて、直感でわかるんですよ。

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ヴィンテージの素材を最新のデザインで楽しむ

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川勝:ただ、僕らの活動は、別にサステナブルの観点でレスキューしているわけではないんです。

 

先人たちが丹精込めて作った大事な生地を廃棄されるのがもったいない、つないでいきたい、という思いに尽きます。捨てずに引き継ぐことが、たまたまサステナブルな活動につながっているだけで。

 

当然、生地によって卸せる量は異なります。でも少ないからといって、全部買い取って欲しいと押し付けることなく、先方の希望のメーター数を聞くようにしています。全部お渡ししても、ブランド側でロスになってしまっては意味がないですからね。

寺田:その姿勢にとても共感します。サステナブル商品のために生地を大量に生産して、結果余らせてしまっては、本末転倒だなって思っていました。僕らができるサステナブルって、今回のような取り組みだと思ったんです。

大切なポイントは、YOKEで今一番売れているパンツに落とし込むこと。どんな生地でも、実際にはいてもらえないと意味ないですよね。デッドストック生地を今のデザインにのせることに価値がある。ヴィンテージ好きじゃない方にも、きっとハマるポイントが見つかると思います。

 

川勝:生地はヴィンテージだけど、デザインは新しい。さらに価値が高まって、服としての魅力が増しますね。

 

寺田:かなり限られた本数の生産なので工場側には迷惑をかけていますが、たとえ利益がでなくても、適正価格でお客さんに届けることも重要視しています。こんな企画ができるのも、直営店の強みですね。

 

川勝:半年前に初めて寺田さんにお会いしたとき、YOKEの「つなぐ」というコンセプトをうかがって共感しました。僕らは新規営業もしますが、相手が誰でもいいわけじゃないんです。生地を大事に扱ってくれるところと取り組みたいので。

 

寺田:相乗効果を感じますね。アイテムやシーズンが変わってもいろんなことができそうだなって、もう次回以降の妄想が膨らんでいます。夏は半袖シャツとか、絶対いいものができるなとか。

 

川勝:いいですね!今回のパンツも、お正月の楽しみとして定番企画になったら面白そうです。

 

布って可能性しかないんですよ。洋服だけじゃなく、インテリアにも使えます。この企画を通して、これまで生地屋さんに馴染みのなかった一般のお客様にも直接手に取って良さに触れてもらいたいですね。

Text:Chikako Ichinoi

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